
〜「富士山で・・・」篇〜
富士山の頂上から眼下に広がる白い雲を見ながら、意識は遠のいたー。
そんな夢を見た...のではなく、実際富士山に登った時のことだ。胸突き八丁の九合目を登りきり、やっとのことで辿り着いた頂上。とたんに空気の薄さについていけず、頭痛や吐き気、冷や汗と一気に体調が悪くなった。日本一太陽に近いところにいるというのに、チカチカと光る星が見えてきた。少し横になって休んでみたものの、一向によくなる気配はない。顔面蒼白の私を見て友達が、すぐに降りた方がいいと言った。少し下に降りれば、空気も頂上よりはマシになるし、何なら背負って降りてもいいと。
涙が出そうになった。その言葉にも感動したが、何より彼女と私は10キロ以上も体重に差があったからだ。友達に迷惑をかけず、自力で歩いて下まで降りなければならない。下に下りれば楽になれる。そう思うけれど、絶不調の体で、歩いて降りることへの不安もあった。富士山の頂上から見える眼下の世界は途方もなく遠い存在にみえた。その時、人間とは最終的には一人なんだな、と痛烈に感じたのを覚えている。そして、一歩一歩ゆっくりと下り始めたのだー。
無事、下山に成功。真上にあった太陽は既に沈みかけていた。登りきった達成感よりも、下ることができたという達成感の方が大きかった。
アルバムには顔面蒼白の私と友達の写真が1枚だけ貼ってある。富士山に登ったことを思い出す時、頂上に登った時の感動よりも、その時に味わった不安の入り混じった絶望に近い気持ちの方が強く思い出される。そんなことがあったなら、二度と富士山に登りたくないと思うところかもしれないが、やっぱりまたいつか登りたいと思う自分がいる。なぜだか、分からないけれど。その時、今の自分が何を感じるのかを知りたいのかもしれない。 |